理系作業療法士のブログ

整形外科、認知症、内部障害の作業療法を中心に取り組んでいます。OTの仕事や研究について書いていきます。

認知機能改善に有効なリハビリテーションは存在するか?  

 

f:id:zenryu:20170517152525j:plain

認知症高次脳機能障害リハビリテーションに取り組まれている方は多いと思います。特に迷いなく取り組まれている人もいるかもしれませんが、私は迷いまくりです(笑)

本日は、認知機能を改善する方法はあるのか?という疑問について書いてみます。まずは、エビデンスの確認から。

 

研究タイプによる信頼性の階層

Ⅰa

Ⅰb

Ⅱa

Ⅱa

 

複数のRCTのメタアナリシスによる

少なくとも1つの、RCTによる

少なくとも1つの、よくデザインされた非RCTによる

少なくとも1つの、他のタイプのよくデザインされた準実験的研究による

比較研究や相関研究、ケースコントロール研究など、よくデザインされた観察的研究による

専門委員会の報告や意見、あるいは権威者の臨床経験

言うまでもないのですが、臨床経験豊富・権威ある人の意見/経験はメタアナリシスよりも信頼性はありません。(意外?)

ベテランの意見よりも、レベルの高い論文を重視するのが当然、ということです。これを前提とした上で、各ガイドラインやコクランレビューを見ていきます。

※注意点として、「高次脳機能障害」「認知機能」の観点から、認知症のレビューと脳卒中のレビューの両方をみています。

 

まずはこちらから。認知症の中核症状に対しては、機能そのものを改善するリハはありません。

 

認知症への対応・治療の原則と選択肢

認知症への対応・治療の原則と選択肢:認知症治療ガイドライン2010)

リハビリテーションは、認知機能や生活能力、生活の質(QOL)の向上を目的とする。認知症の治療では、薬物療法を開始する前に、適切なケアやリハビリテーションの介入を考慮しなければならない。

薬物療法開始後は有害事象のチェックを含めた定期的な再評価が重要である。(グレードなし)

認知症の中核症状を構成する記憶や注意等の認知機能そのものの向上を目的としたリハビリテーションは、Cochrane Libraryでも認知症に対する認知機能向上効果の優位性が示されていない。

 

MCIもしくは健康な高齢者に対する認知機能訓練では、認知的介入の可能性を否定しきれませんが、対照群を上回っていません。優位な効果があるとは言えないようです。

 

大神英一(監訳):健康な高齢者及び軽度の認知機能障害患者を対象とした、認知面に重きを置いた介入:Minds:2011

認知的介入が確かに機能向上につながるというエビデンスはあるものの、認められた効果は、実薬対照群で認められた改善を上回っていなかったため、いずれの効果も認知訓練に明確に帰しうるとは考えられなかった。

 

続いてこちら。記憶障害は改善するか?

改善は難しいようです。代償手段の獲得が必要です。

江川賢一(監訳):脳卒中後の記憶障害に対する認知リハビリテーション: Minds:2007

機能的アウトカム、ならびに他覚的、自覚的および検者が評価した記憶の指標に関する記憶リハビリテーションの有効性を支持する、または否定するエビデンスはなかった。

一般的で標準化されたアウトカム指標を用いて、より頑健で、適切にデザインされ、良質な報告が行われた記憶リハビリテーションに関する試験が必要である。

 

日本脳卒中学会:認知障害に対するリハビリテーション脳卒中治療ガイドライン:2009

記憶障害が軽度→メモやスケジュールの使用を獲得を目的とした訓練が望ましい。

記憶障害が中等度や重度→特異的な技術の習得、領域特異的な知識の獲得を目的とした訓練(グレードB)

•       記憶障害に対する認知リハビリの効果について十分な証拠はない

•       特異的な技術の習得、領域特異的な知識の獲得を目的とした訓練の方が記憶障害そのものを改善するよりも効果的

極めつけはこちら。認知障害に対する作業療法に効果はあるか?

現状、エビデンスがあるとはいえないようです。

江川賢一(監訳):脳卒中患者における認知障害に対する作業療法:Minds:2011

脳卒中後の認知障害に対する作業療法の有効性はまだ不明である。脳卒中を起こした人の基本日常生活機能や特異的認知能力、あるいはこれら両者の改善に、作業療法の一貫として行われる認知再訓練の潜在的利益は、本レビューに含まれたエビデンスにより支持も否定もできない。より多くの研究が必要である。

 

批判やご意見は多数あるかと思いますし、信じたくない気持ちもあるかもしれません。学会発表などでは良くなった報告がなされていますが、残念ながらその殆どは「統計学的に有効」だとは言えません。

 

できることは何か?

基本的に運動と食事を改善することです。特に運動習慣をつけることが非常に重要です。

認知症に限らず、心疾患や脳血管疾患、糖尿病などの生活習慣病に対して運動療法は有効です。エビデンスレベルも非常に高いです。

そもそもアルツハイマー認知症生活習慣病である、という考え方もあるようですが)

アルツハイマー認知症(以下:AD)の危険因子は①身体的不活動②うつ③中年期の高血圧④喫煙⑤中年期の肥満⑥糖尿病

の順番であるようです。①〜⑥のほぼすべてにおいて、運動療法が有効です。

 

日本脳卒中学会:体力低下に対するリハビリテーション脳卒中治療ガイドライン:2009

有酸素運動トレーニングもしくは有酸素運動と下肢筋力強化を組み合わせたトレーニングは、有酸素性能力、歩行能力、身体活動性、QOL、耐糖能を改善するので強く薦められる(グレードA)

慢性期脳卒中片麻痺患者において、サイクルエルゴメーターによる有酸素運動トレーニングは、最大酸素摂取量を増加させ最大下運動時の収縮期血圧を低下させる。

トレッドミル歩行による有酸素運動により、最大酸素摂取量、6MWD、歩行能力は向上し、加えて耐糖能の改善がもたらされる。

 

運動療法が直接的に認知機能を向上させる、と言い切るには根拠がまだ薄いのですが、予防的には効果がありそうです。

 

また、国立長寿医療研究センターが提唱している、「コグニサイズ」も検討の余地はありそうな気がします。まだ論文数が揃っていないようなので根拠があるとは言い切れませんが、感覚的には有効な感じです。

ただし、対象は歩行能力/運動能力が保たれており、認知機能的には健常〜MCIくらいの方が対象かなと思います。

今後の研究に注目したいです。

http://www.ncgg.go.jp/cgss/department/cre/cognicise.html

 

文献