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理系作業療法士のブログ

整形外科、認知症、内部障害の作業療法に取り組んでいます。OTの仕事や研究について書いていきます。

エビデンスに基づいた医療(EBM: Evidence Based Medicine)とは何か?

作業療法での科学的・数学的リテラシー

エビデンス、という言葉自体は、最近リハビリ・作業療法の学会でも非常によく聞きますので、馴染みがある人は多いと思います。

しかし、作業療法の業界ではまだまだ科学的・数学的リテラシーが高いとはいえません。今日はエビデンスに基づいた医療(EBM: Evidence Based Medicine)について書いてみます。

 

エビデンスがないとなぜ困るのか?

2015年11月26日、栃木県で、Ⅰ型糖尿病の少年を死亡させたとして、自称祈祷師の男が逮捕された。男は、「少年の腹に悪霊がいる」「インシュリンは体に毒だ」と言って治療をやめさせた上に、「祈祷をすれば良くなる」とし、報酬として、両親から約200万円を受け取っていたという。

もちろん、これは全く根拠のない治療であり、男は殺人の容疑で逮捕された。

 

これは強烈な例ですが、端的にEBMを物語っていると思います。エビデンスのない治療が行われていると、このような悲劇が生じるということです。

しかしなぜ、このような事態が生じたのでしょうか。考えられる仮説として(本当にムリヤリこじつけで考えるならば、ですが)、祈祷の直後は、少年が比較的良くなったように見えたのではないでしょうか。それは、プラセボ効果の働きによるものと思われます。

 

プラセボ効果の凄まじさ

アメリカの麻酔科医ヘンリー・ビーチャーが、第二次世界大戦野戦病院モルヒネが足りなくなったときに、傷ついた兵士にやむを得ず生理的食塩水を注射して、強力な鎮痛剤であるかのように思い込ませた。すると驚いたことに、患者はすぐさま緊張を和らげ、痛みや苦痛や不安のそぶりを見せなくなったのだ。プラセボ効果は激烈な痛みも押さえ込むらしかった。1)

 

治療者の立場からすれば、悪いものではないように見えるかもしれません。しかし、患者側としては大問題です。詐欺がまかり通ることになりかねないし、適切な時期に行われるべき治療の機会を奪われているかもしれません。先程の糖尿病の少年は、適切な治療の機会を奪われています。

では、プラセボ効果を排除した治療を調べるにはどうすればいいでしょうか?

二重盲検化試験という方法があります。

 

二重盲検試験

二重盲検化とは、簡単にいえば患者も医師も効果があるかどうか知らない状態、つまりプラセボ効果を可能な限り排除して治療効果を検証することです。

その条件は以下の7つがあります。

  • 対照群と治療群が比較されること
  • どちらの群にも、十分に多くの患者が含まれること
  • 群への割り振りは、ランダムに行われること
  • 対照群には偽薬を与えること
  • 対照群と治療群とを同じ条件下に置くこと
  • 患者には、自分がどちらの群に属しているかわからないようにすること
  • 医師が患者に施す治療が本物か偽物かを医師も知らないようにすること

 

これらを満たしているものが多ければ多いほど、レベルの高い試験と言われるものです。ただし、全世界で数え切れない本数の論文が毎年発表されています。その中でベストなデザインで行われて、ベストな結果を出している治療法を探している時間など、臨床医にはありません。それでは、どうすればよいでしょうか?

コクラン共同計画(Cochrane2))を利用するという方法があります。

 

コクラン共同計画とは

オックスフォード大学に本部を置き、ある治療法について行われた臨床試験の規模や方法を重視し、厳密な科学的方法による評価(系統的レビュー)を行っている。系統的レビューでは、薬の効果だけでなく、あらゆる治療方法の有効性が評価されている。またコクラン共同計画は、関連企業からは1ポンドたりともお金はもらっていないので、結論は公表されている。1)

 

もちろん、リハビリテーションについて、作業療法についてのレビューもされています。英語で書かれたレビューがほとんどですが、日本語で書かれたレビューもあります。

しかし、作業療法で「エビデンスの高い」報告は、残念ながらあまりないのが実情です。その理由はなんでしょうか?

 

臨床試験の規模と研究方法

コクランで、いや系統的レビューで重要視されているのが、①臨床試験の規模②研究方法です。簡単に言えば、大人数で、かつ、プラセボ効果を優位に上回る効果を示せればよいということになります。

臨床試験の規模は言うまでもなく、被験者の人数です。これは、人数が多ければ多いほど信頼性が高く、少なければ少ないほど信頼性が低いのはいうまでもありません。(率直に申し上げて、系統的レビューの観点で言えば、シングルケースはほぼ意味がありません)

②研究方法は、二重盲検化試験に近い、つまりプラセボ対照群と比較する方法を考えて実践することです。(リハビリでプラセボ効果を排除することは非常に困難ですが…)

まあ、これらはかなり端折った話ですので、参考文献の『代替医療解剖』はぜひ読んでみてください。今回は参考にはしていませんが、脳卒中や循環器などのガイドライン(Minds含む)も、ぜひご一読していただきたいと思います。

 

おわりに

作業療法が生き残っていくためには、苦し紛れの方法ではなく、正攻法であるエビデンスを残していく方法で実践していくこと、これにつきると思います。

簡単にできる方法としては、各個人の数学的・科学的リテラシーを高めること。まずここから、と思います。

 

参考文献・サイト

1)サイモン・シン、エツァート・エルンスト:代替医療解剖:2013

2)Cochrane:our evidence

www.cochrane.org